2014/12/04

スズとわたし

 2,3年にひとりくらい、話すのがとても楽でずっとへらへらしていられる人に出会える。
 あれは小学校何年生だったんだろうか。女の子たちとなんとなくぎこちない会話をしてなんとなく居心地が悪いと思っていた私にとって、スズという女の子は珍しく気を許せる存在であった。とはいえ、小学生時代はもう10年以上前で、記憶もどこか曖昧だ。でも私の家でバズライトイヤーを振り回して二人してげらげら笑ったことはよく覚えていて、本当にくだらないことで笑いまくれる人が私は今でも好きだし、そこは変わっていないあたりから、記憶が多少曖昧でも、10年以上前の、私かどうか怪しい存在もちゃんと自分なのだと実感することができる。
 小学校高学年だったか、中学に入った頃であったか、習い事に行く途中の電車で違うクラスの先生に遭遇し、世間話をしていたら、しずくださんは違うクラスだからよくわからないんだけど誰と仲がいいの?と訊かれ、私は何人かの友人の中でスズの名前をあげた。そこで初めてスズが学校にきていないことを知った。
 それからスズはずっと学校にこなかった。先生の話ではフリースクールに行っているから勉強はしているそうだった。私はスズの異変に気がつけなくて嫌われてしまったのだと思った。でもなぜか私はスズに手紙を書き始めた。
 スズの家は私の家から数十メートルで、学校に行く途中の道にあった。その年頃らしく、ルーズリーフにかわいい色のペンで他愛もない話を書いてはポストに投函した。学校にきてほしいとはいえなかった。フリースクールがどんなところかも知らないからそういうことも書けないし、季節の花の話や気候、イベントの話をよくしていたと思う。ずっと返事はなかった。時々面談に訪れている先生が、スズが手紙を読んでくれていることを教えてくれた。私はずっと手紙を書いていた。
 いつまで書いていたんだろうか。いつのまにか手紙を書くことをやめた。そして私は勝手に歌を作った。
 スズの家の前には立派なあじさいが植わっている。あじさいが咲き誇る季節には私の町で一番のあじさいスポットとなるスズの家を今日も明日も私は通って街へ出かける。